国立楽器サロン・ド・ノアン





ヴィンテージのプレイエルのグランドピアノは、画像のように大屋根の前面のみを開ける事ができるように工夫されて います。これは、1900年頃から1950年代頃までのプレイエルを始めとするフランス製グランドピアノの多くに装備さ れていたもので、大屋根の前面のみを開ける事で、ピアノの音を間近で聞く事が出来るように、音響的に工夫されたも のと思われます。
ピアノを置くスペースが限られているパリのアパルトマンに適した工夫と言う事が出来るでしょう。

前面蓋を支える屋根棒
屋根棒を前面蓋に装着した状態
前面蓋を開けた全景


正面から見た状態
側面から見た状態
前面蓋を支える仕組み



ヴィンテージ時代のグランドピアノには、画像のように譜面台部分の左右のパネルを手前に 引き出せるように工夫されたものが多く見られます。これは、蝋燭スタンドを置くためのもので、 かつて夜には、このパネル部分に蝋燭スタンドを置いて、楽譜を照らし出していたのでしょう。 これは、プレイエルだけでなく19世紀以来ヨーロッパ製のピアノに広く装備されていました。 これがアップライトピアノの場合になると、前面パネルに直接燭台が装着されているタイプが多く、 一般的にアンティークピアノをイメージされた場合に、こういったピアノを連想される方も多いと思います。
この蝋燭スタンドは、後の電球の発明とその急速な普及と共に、次第に過去のものとなって行きます。 20世紀に入ってからも、19世紀来の生活習慣の名残と文化として装備され続けていましたが、 その後次第にモダンアートの時代に移行する中で、ピアノのデザイン自体もその影響を受けるようになって、 ヨーロッパのピアノメーカーの中で次第に廃止されるようになります。その中でも比較的後まで燭台を残していた プレイエル社でも1930年頃には廃止されました。
そして現在では、プレイエルの19世紀デザインのアップライトピアノの復刻版モデル「ロマンティカ」 に忠実に復元され、見る人の目を楽しませ、いにしえのヨーロッパを思い起こさせるアイテムの一つとなっています。

例1、グランドピアノの場合(1925年製プレイエル・モデルNO,3bis)
蝋燭スタンドを引き出す前
蝋燭スタンドを引き出した状態
蝋燭スタンドを引き出した全景

例2、アップライトピアノの場合(1907年製プレイエル・モデルNO,5「ロマンティカ」)
ロマンティカ1907年製全景
燭台付きの前面パネル部分
燭台部分




プレイエル社では、1870年に初めてMODEL No,3bisが登場しました。 当時のプレイエルの構造は、基本的にはショパンが実際に使用していた時代の延長上にある、 極めて旧式の構造で、全長が180cmありました。これが、1891年には192cmへと拡大します。 1900年代に入り、プレイエルでは大きな構造の近代化が図られ、現在の一体型フレームによる総鉄骨方式に 改められた他、内部メカニックもプレイエル社独自のダブルアクションが装備されることにより、 完全に現代ピアノとしての完成を遂げます。1905年にはNo,3bis型の完成形となる164cmのモデルとして 登場しました。この164cmのモデルは当時のプレイエルのグランドピアノの中でも最も人気があり、 最も多く製造されたのです。また、このNo,3bisはシャルル・グノーやジュール・マスネといった世界的に 著名な音楽家にも愛用されました。その後、1924〜5年を境に鍵盤を増やした88鍵仕様も並行して製造されるようになりました。
そして1925年に、従来のNo,3bisに変わる新機種として、新設計の F型が登場します。 これにより、No,3bisは翌年まで製造されたものの、F型へ一本化する形で1926年に製造終了しました。

F型へ移行後のプレイエル社は1929年の世界大恐慌を経て経営難に陥って経営体制が変わり、 1930年頃を境に製造に関する合理化が図られたと推察され、それまでのプレイエルアクションから、 当時のピアノで最も一般的であったシュワンダー社型アクションが装備され始めました。 その後のF型は、プレイエル社が戦後1961年のエラール・ガヴォー社との合併を経た後に、 MODEL Vandome F型と改称されました。その後、紆余曲折を経て、現在MODEL P-170としてその伝統は 見事に現代に生き続けており、往年と同じく、未だにプレイエル社の代名詞的なピアノであり続けています。

その特徴は、プレイエルピアノの理想を体現したと言っても良いもので、明快で艶と甘美さを兼ね備えた 魅惑的な音色、打鍵の微妙な変化に反応する繊細なアクション、また"シンギングトーン"を体現した 極めてまろやかに長く鳴り続ける声のように歌う響きや、小型でありながら大きいサイズのピアノに及ぶ 豊かな音の広がりなどが挙げられます。
このピアノは、演奏者のイマジネーションをかきたてるに十分なキャパシティを持ち、日常のレッスン用 ピアノとしては勿論のこと、小規模のサロンコンサートまで幅広く対応できるピアノといえるでしょう。
200年に亘って多くの演奏家をその魅力の虜にしてきたプレイエルの醍醐味を存分にお楽しみ下さい。

例1、プレイエル・モデルNo,3bis
全景
鉄骨フレームの形状


例2、プレイエル・モデルF
全景
鉄骨フレームの形状




プレイエル社では、F型をさらに小型化にしたモデルとしてG型を開発しました。 このG型は、元々1917年に発表され、1924年まで製造されたNo,3ter型 (全長150cm)が原型となり、1930年のプレイエル社の経営体制の転換を経て、 新たな設計で1932年にG型(全長148cm)として開発されたものです。
G型は、F型(全長164cm)と並んでコンパクトなサイズとリーズナブルな価格で人気を 博しました。当時の標準装備としてシュワンダー型アクションが装着され、鍵盤数も88鍵 として登場しました。第二次世界大戦後も製造され続け、1961年エラール・ガヴォー社 との合併時に惜しくも生産を終了しました。
G型の特徴はプレイエルピアノの理想を体現したと言えるF型をさらに凝縮したと言っても 過言ではなく、大変小型でありながら、外見からは想像もつかないほど、豊かな響きと ダイナミックな音量に驚かされます。F型と並んで、学習者や愛好家の方はもちろん、 演奏家が普段使用するピアノとしても充分な表現力のパレットを持ち、日常のレッスン用 ピアノとしては勿論のこと、小規模のサロンコンサートまで幅広く対応できるピアノと言えましょう。
プレイエルの200年に及ぶピアノ製作の長い伝統を凝縮したような魅力を秘めています。

例1、プレイエル・モデルG(1932年製)
全景
鉄骨フレームの形状




プレイエルは、これまでダブルコンセールや2段鍵盤ピアノなど、 他のメーカーには類を見ない、様々なユニークなピアノを製作してきました。 プレイエル・ピアノ モデルST"Elite(エリート)"は、プレイエル社が1938年に発表した 折りたたみ型のユニークなアップライトピアノです。
このピアノは、前年の1937年に初めて発表されたモデルST「Studio」の改良型として登場した、 全高110cmという小型のアップライトピアノで、鍵盤部分が折りたたんで収納できる ユニークな機能を持っています。鍵盤部分が収納されますと、外見上は四角い箱のような 状態になります。
一見家具のようなデザインは、お部屋のインテリアと同化してしまう、 そんな特徴を持っています。小型で折りたたみが出来る特徴から、 船舶搭載用(客船の客室用)のピアノとして設計された経緯もあって「For Boat」という別名もあります。
フランスのエスプリを感じさせる世界的にも希少と言えるこの "Elite(エリート)"モデルは、歴史的なコレクションとしても価値あるモデルと言えるでしょう。

全開時の全景
鍵盤収納時の全景
屋根蓋全開時




プレイエル社では、H型が登場する以前から、小型モデルの制作に力を入れていました。 特に往年のプレイエルの代名詞的存在であるNo,3bis型(後のF型)全長164cmのタイプに始まり、 その小型モデルのNo,3ter型(全長150cm)、そして1930年のプレイエル社の経営体制の転換を経て 1932年に発表されたG型(全長148cm)があります。 そして、そのG型をさらに小型化したモデルとして1935年にこのH型が発表されました。 その全長は何と130cmしかなく、鍵盤の幅(144cm)よりも小さいもので、 文字通りプレイエル史上最小のベビーグランドピアノとなったモデルです。 当時の標準としてシュワンダー社型アクションが装備され、鍵盤数も88鍵として登場しました。 その後のプレイエルでは、続いて同じく全長130cmのモデルJ型を1936年に発表しますが、 極めて少数しか生産されなかったと言われ、H型へ一本化する形で1941年に生産終了され、 その後、第二次世界大戦終結を経て1948年にH型も生産終了しました。

H型の総生産台数は大体1000台位と言われ、当時のプレイエル社の人気機種の一つであった事を窺い知る事が出来ます。 因みにプレイエル社では、翌1949年に新たに全長140cmのK型を発表しますが、 これも1952年に生産終了して、その後1958年、今度は全長135cmのL型を発表して、 1961年にエラール・ガヴォー社との合併と共に一旦生産終了します。 合併後はモデル"Elysée"と改称して生産が続けられましたが、 1970年にエラール・プレイエル・ガヴォーの3つのブランドが ドイツ・シンメル社へ売却された際に、惜しくも生産終了されました。

このH型が発表された1930年代当時のフランスでは、 他のエラールやガヴォー等フランスを代表するメーカーと共に競うように超ベビーグランドピアノが製作されました。 これは、当時の流行であったのか、特にフランスではピアノの歴史の中でも特筆して ベビーグランドピアノの名器が集中して製作されました。 それらに共通する特徴は、大きいサイズのグランドピアノにもひけを取らない、 中音域から高音域にかけて極めて豊かな響きと、魅力的な音色を持っている事です。 このH型はその中でも最小のモデルの一つでありながら聞き手を虜にする、プレイエル往年の名器の一つです。

例1、プレイエル・モデルH(1939年製)
全景
鉄骨フレームの形状



文責:松原 聡
(本文の転載は国立楽器サロン・ド・ノアンまでお問合せください)